著者:戸井十月/発行:集英社文庫(2008.06第9刷)/定価:533円+税/P.267
小説家・ルポライターでバイクをこよなく愛する戸井十月氏が、「20世紀最高のゲリラ」として勇名をはせ人々の心に焼き付けた「チェ・ゲバラ」に関するノンフィクション・ノベルだ。2000年3月、単行本「ロシナンテの肋」として発刊され、2004年10月に文庫本化され、2008年6月に第9刷された。
1928年、チェ・ゲバラはアルゼンチン・ロサリオで生まれ、ブエノスアイレス大学で医学を専攻した。1951年、23歳の時に、友人とともに南米一周のモーターバイクでの旅に出た。訪れた地でフットボールの指導で金を稼ぎ、またさまざまな職種で働き旅を続けた。貧しい人々との旅での出会いが、チェ・ゲバラの革命家としての意思を形づくったと言われている。革命家以前の若き日のチェ・ゲバラの南米モーターサイクル旅行については映画化されわが国でも上映された。
この本を今年の初夏に読んだ。読みながら、若きチェ・ゲバラの愛と正義と信念、そして行動の輝かしさを著者は浮かび出し伝えてくれた。著者はチェ・ゲバラの足跡を辿りバイクで南米一周を実現した。著者は文庫本ための追記の最後で、チェ・ゲバラの優れた資質について、彼の娘やキューバの旧同志たちに聞くと、すべての者が「人を愛する才能です」という答えが返ってきたという。
「ゲバラは稀代のゲリラ戦士であり革命家であるより前に好奇心に満ちた旅人であり、負けず嫌いのスポーツマンであり、ロマンティックな詩人だった。そして何より、人を愛し続けた。」と著者は書き記した。その言葉が印象深い。時代とイデオロギー(政治思想)を超えて、チェ・ゲバラは生き続けている。混迷を迎えた世界だからこそ、不死鳥のように蘇るのだろう。
「モーターサイクルダイアリーズ」Webサイト
著者:小川光生/発行:光文社新書(2008.12)/定価:780円+税/P.261
~地元チームの応援に、なぜそこまで燃えるのか?~
~カルチョ(イタリアサッカー)とカンバニリズモ(郷土愛)の奇妙な関係とは?~
「イタリアにカンバニリズモという言葉がある。もともと教会の脇に聳えるカンバニーレ(鐘楼)から派生した言葉である。その町の鐘の音の良さ・味わいは、その町の出身者にしかわからない。そこから、郷土への帰属意識・郷土愛を示すこの言葉が生まれたと言われる。」とはしがき冒頭に書かれた一文を読んで興味を抱き、病院からの帰りに、JR環状線・森ノ宮駅構内の書店で購入して読んだ。
「カンバニリズモ(郷土愛)」が顕著に現れるのがサッカーのスタジアム、とくに「ダービーマッチ」だいう。同じ都市同士、近隣の二都市のチームが対戦するという「ダービーマッチ」がイタリアには無数にあり、歴史と文化を反映した峻烈な戦いとなるという。いにしえの時代から地方分権の伝統を持つイタリアでは、各地にさまざまな地域の地方「ダービーマッチ」が存在する。それは我々が想像するサッカーのゲームなどとは程遠い、内戦、決闘の様相を呈するという。さまざまな「ダービーマッチ」の狂気の様相が何に起因しているのかを興味深く読んだ。
わが国のサッカー界においても、「ダービーマッチ」という名前だけ取り入れたゲームが確かに存在する。しかしながら、その多くは、歴史・文化の流れにもとづいた「カンバニリズモ」、「ショービニズム」「パトリオティズム」という言葉で表される「郷土愛主義」の表出する場ではなく、あくまで商業的なイベントにしかすぎない。ただひとつ。地域リーグの「ダービーマッチ」である「信州ダービー」にはその匂いが存在するように思われる。「長野」(長野県)対「松本」(筑摩県)の歴史が熱狂を生み出すのだろう。グローバルな時代になればなるほど、対立する概念である「郷土愛主義」が浮かびあがってくる現実がある。
著者があとがきで記した。「イタリアのスタジアムで感じるような強いフランチャイズシップ、カンバニリズモが僕の中にあるとしたら、それは東校(藤枝東)サッカー部へのものしかない。・・・・サッカーへの熱い思いが僕の中にある。それは藤枝東が清水商業に敗れたあの秋の日から僕の中にあるものだ。」「僕はいつもあの秋の日のことを思うのだ。『それがオレのフランチャイズシップ、カンバニリズモだ!文句があるか!』と心で呟きながら」。
著者にとって、1988年11月6日全国高校サッカー選手権静岡大会準々決勝で、清水商業に2-3で惜敗した時のことを記した。「僕は彼らが国立競技場に立つ姿を心から夢見ていた。だからこそ、僕は声が潰れるまで彼らのことを応援したのだ」と。著者は現在、イタリア・ヴェネツィア在住で、2008年1月高校サッカー選手権、藤枝東校は決勝へ進出したおりには、いても立ってもいられなくなり、ヴェネツィアから国立競技場まで飛んだという。第三者から見れば狂気じみた行動と写るかもしれないが、人が寄って立つべき場所、想いは人を魅了し行動を起こさせる。人それぞれの「カンバニリズモ」がある。
著者:今福龍太/;発行:月曜社(2008.11)/定価:1800円+税/P.197
「円形の遊戯的宇宙 勝敗原理の抑圧と評論に叛乱するサッカー批評の戦闘的論考」
「勝利や戦術といった概念に、サッカーのすべてを売り渡してしまう必要はないのだ」
【コンテンツ】 起源論/伝播論/儀礼論/本能論/陶酔論/戦術論/遊戯論/ファンダム論/時間論
私と同年代の著名な文化人類学者が記したサッカーの本質を問いただした文化人類学的サッカー論である。著者はサッカーの本質的、根源的な意味をブラジルという特異なサッカー王国とその選手の中にに見出している。
「個人技とは、けっして一人のプレーヤーの個人的特性として他者の身体から峻別される単独の技量ではなく、むしろ、厚みのあるサッカー文化とサッカーへの継続的な情熱が継承してきた、集団的身体性の時間を隔てての顕れにほかならない、と。すなわち究極の個人技とは、集団の伝承なのである。」
ブラシルというサッカー王国で、ピッチ内外でボールに興じる人々は、「ホモ・ルーデンス」なのだ。ボールの「遊び人(あそびびと)」というサッカー文化が継承されている。だからこそ、ブラジルサッカーは魅力を放ち続けている。信州への旅の往復路に、この魅力的かつ刺激的な本を読んだ。サッカーは「円形の遊戯的宇宙」なのだ。
著者:沢木耕太郎 発行:新潮文庫(2008.11) 定価:552円+税 P.366
「妻ととともに美しい氷壁に挑み始めたとき、2人を待ち受ける壮絶な闘いの結末を知るはずもなかった。絶望的状況下、究極の選択。鮮やかに浮かび上がる奇跡の登山行と人間の絆、ノンフィクションの極北。」と文庫本の裏表紙に記された一文は、読後してなんらその言葉に違和感を抱くこともなかった。山岳ノンフィクションとしての最高の作品だと思う。読み終えた後も感動などを通り越した不可思議な余韻が私の心の中に漂った。
世界最高峰のエベレストの隣にそびえるギュチュンカンへの登攀、クライマー夫婦の峻烈な闘いのものがたりだ。妻は以前の山行で手足の指を凍傷で切断されている。2002年、ギュチュンカンを2人で目指した。夫は単独で頂上に立ち、その後2人は苦闘の末、生命も危ぶまれる中で下山した。今度は夫が凍傷のため手足の指を10本切断した。壮絶な情熱と愛の詩だ。
彼、山野井泰史は、その後もクライミングし続けている。山に登ることは生きることなのだ。ただ頂上を踏むことが目的なのではなく、「美しいラインを描いて登る」ことにこだわったのだという。結果だけがよければよいというのではなく、その過程の美しさにこだわり結果に結びつける。そのことがすべての領域での考え方に通ずるものなのだ。
スポーツ関係者には一読して欲しい本だ。我々は、「美しいラインを描いて」、それぞれの目標、高みに向かって登り続けているのだろうか?
「山野井泰史」Webサイト
「山野井泰史・クライマー/情熱大陸」Webサイト
著者:藤原新也/発行:東京書籍㈱(2008.08)/定価:1700円+税/P.237
【コンテンツ】 島原 口紅/天草 海とまねき猫/門司港 夕立/尾道 雲煙過眼/能登 サザンカの海/房総 サクラの歌を聴けば/ほか
写真家、作家といえばよいのか、藤原新也氏は砂上の楼閣、虚妄としての「日本」を撃ち続けてきた。かつて、まだエネルギーを噴出していた雑誌「フォ-カス」で掲載された、インドでのひとつの写真に私は衝撃を受けた。もしかしたたら、その写真のことを覚えていらっしゃる方がいるのだろうか。あの日から、私は写真家、文筆家である藤原新也氏に興味を抱き、惹き続けられている。その新刊著作「日本浄土」を読んだ。
観光地でもない、賑わいからは程遠い街をめぐり、著者はある想いを抱き日本漂流をする。漂流などではなく、源流を求めて。ほんとうはわれわれが、行くあてもなく漂流しているのだろうか、そのことも気づかずに。人は「聖地」、「浄土」を求めて、そうだ「生地」を求めて歩み続けているのだろうか。著者はいう、「聖地はここにある。歩き続けることだけが希望であり抵抗なのだ」と。
「写真家・藤原新也」公式サイト
著者:佐藤竜一/発行:集英社新書(2008.09)/定価:714円/P.174
宮澤賢治という詩人の名を知らぬ者はいないだろう。詩人、農学校教師、農民芸術運動家としてその名は今も人々の中に生き続けている。この本は、賢治の最晩年における生活者たるべくセールスンとして、「デクノボー」と呼ばれても駆けずり回った日々を描いた。知られざるセールスマンの日々、新たな賢治像を私たちに伝えてくれる。
賢治は、教職を辞し、羅須地人協会を起こし、挫折し病気になり、最後に挑戦したのが東北砕石工場の技師兼セールスマンの仕事だった。その仕事について、6ケ月後、36歳でこの世を去った。賢治は生前は無名のままでその生涯を閉じた。しかし、死後、彼の残した言葉の数々は、永遠に私たちの心の奥底に刻まれ続けている。これからもずっと・・・・。
編者:「逆転の日本史」編集部/発行:宝島社文庫(2008.10)/定価:600円+税/P.285
「日本人はどこからやって来て、日本人になったのか?」という興味あるテーマを幅広い科学の分野からアプローチした読みやすく面白さ溢れる本だった。
【コンテンツ】「形態人類学」からのアプローチ/「植物遺伝学」・「動物考古学」・「微古生物学」からのアプローチ/「民族学」・「自然人類学」・「歴史地理学」はどう見るか/「民族考古学」・「古病理学」からのアプローチ/「人類進化学」・「民族疫学」・「免疫遺伝学」からのアプローチ/
稲、稲作、骨、骨格、歯、ミトコンドリアDNA、ATLウイルス、HLA遺伝子、等の科学的な視点から、日本人の起源をさぐる。まだまだ不確実的な要素は多々あるらしい。この本を読みながら、共通の基底として流れているのは、日本人は単一民族と呼ぶには、あまりに複雑に混合した人種だと理解した。
上段:左から別冊宝島編集部「~満州国を作った男~石原莞爾」 (宝島文庫2008.08) 佐野眞一「阿片王~満州の夜と霧~」(新潮文庫2008.08) 「保阪正康「戦争と天皇と三島由紀夫」(2008.08朝日文庫) 保阪正康「大本営発表という権力」(講談社文庫2008.08)
下段:星亮一「偽りの日米開戦」(だいわ文庫2008.07) 「失敗の本質 日本軍の組織論的研究~」(中公文庫1991.08)
この夏に上記の文庫本新刊が相次いで書店に並んだ。面白そうだと思い続けさまに読んだ。戦前・戦中・戦後にわたる興味湧く内容だった。その時代も「歴史」として本格的に検証されだしたのだろう。過去の事実を検証して現在と未来へ繋ぐためにも、さまざまな主義主張の立場はあるのだろうが、その時代に何が事実として起こったのかは知っておく必要があると私自身は思う。
うだるような夏の暑さの中で、毎日の通勤電車、信州・長野、福井への道中またその街中で読んだ。自宅では読むことがなかった。夏の「移動読書」だった。
著者:村上春樹/発行:講談社文庫(2008.08第19刷)/定価:(上・下)各514円+税/上:P.302 下:P.293
以前に読んだ村上春樹「ノルウェイの森」を、近鉄「富雄駅」前の「ジャパンブックス」で買った。秋の夜に読んだ。1987年に単行本として刊行された。ベストセラーにもなった。その文庫本新刊だ。映画化のニュースを新聞で見て、その刺激がこの本を手に取ったのだろう。ベトナム系フランス人の監督トアン・アン・ユン氏の手により映画となる。2010年公開予定だ。
物語は1987年を生きている主人公から18年前、1969年を回想した恋愛物語なのだ。今から見るとわが国の最後の混沌とした社会状況の中で、大学生の思春期の葛藤、喪失感、物憂い倦怠、そして恋愛が叙情的、官能的に描かれている。海外でもベストセラーとなった。
「僕はずっとあの草原の中にいた。僕は草の匂いをかぎ、肌に風を感じ、鳥の声を聞いた。それは1969年の秋で、僕は二十歳になろうとしていた。」と文庫本の上巻2ページにその文章があった。下巻180ページには、 「1969年という年は、僕にはどうしようもないぬかるみを思い起こさせる。・・・」と。
村上春樹は「ノルウェイの森」で20歳の時の、作家・村上龍は「69」で18歳の時の、「1969年」を描いた。政治的と非政治的、陽と陰、対照的で有りながらも一対だ。1969年秋、私は高校1年生、まだ16歳だった。あの時代の混沌が今も自分自身の根底に渦巻いている。それは青春の埋火なのだろうか。
2010年、「ノルウェイの森」は映画化、公開される。海外の監督が映し出す「ノルウェイの森」とはどのような映像になるのだろうと今から楽しみにしている。
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