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2008年11月 7日 (金)

あの日、僕たちは小旗を打ち振った!

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 もう45年以上前、1962年(昭和38年)の頃だ。近所の鉄工所のおじさんに路地裏小僧の数人が声をかけられて、鶴橋駅まで出かけた。おじさんは鉄工所の名が記された大きな旗を、僕たちは小旗を持ちながらあひるの行列のように駅へと向かった。春四月、集団就職で九州・宮崎からやってくる中学校を卒業したばかりのお兄ちゃんたちを出迎えに。

Photo_3  僕たちは、今か今かとこの改札口前で待っていた。この階段をお兄ちゃんたちが降りてきたなら、旗を威勢よく振るんだぞというおじさんの指示の下に、僕たちは予行練習を二度ばかりした。

 しばらくして、男の人に引き連れられて、二人のお兄ちゃんがこの階段を降りてきた。黒い学生服に学生帽をかぶり、手には重そうな大きなバッグを持っていた。その姿を見るなり、おじさんは大きな声で叫んだ。何を叫んだのかは今となっては思い出せない。僕たちは威勢よく歓迎の小旗を打ち振った。でも、お兄ちゃんたちは少し不安そうだった。

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 僕たちの一団は駅の構内からすぐ前の電車道(千日前通)沿いに東へ、おじさんを先頭に、続いて二人のお兄ちゃん、その後が僕たち路地裏小僧の順に列を組みながらわが路地裏へと向かった。疎開道路の信号を渡った。

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 この家の角を右に曲がり、すぐに左に曲がれば、わが路地だ。いつも僕たちはこの角を曲がり家路についていた。近道だった。でも、おじさんは曲がらずに直進した。遠回りだった。ぼそぼそと誰かがつぶやいた。「おっちゃんは、ええかっこしとるで。にぎやかな路を通らせたいんや!」

 この角を曲がれば近道だが、あまりきれいではない。電車道沿いのほうが少しはにぎやかさがあった。僕たちは、次の角である「アジアコーヒ」の所を右に曲がり「大成通商店街」を通っておじさんの鉄工所へと着いた。

 あの日、鶴橋駅で小旗を打ち振ったことは鮮明な印象として今も残っている。おじさんに言われたから振ったのではなく、僕は素直な気持ちで振った。それは間違いないと言える。おじさんが、あの日、近道をせず遠回りの道になるのだが、少しはにぎやかな道をこの街に来たはじめてやってきたお兄ちゃんたちに歩ませたことは、僕には、「ええかっこをした」というのではなく、おじさんが少しの「希望」をお兄ちゃんたちに伝えたと今も思い続けている。あの日から45年後、今は亡き鉄工所のおじさんへの心からの賛歌としたい。

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